本研究は、口頭コミュニケーションと文書コミュニケーションが並立し、固有のコミュニケーション文化を形成していた初期中世ヨーロッパ、とりわけ紀元千年期(919-1020年)のオットー朝神聖ローマ帝国の社会のあり方を解明することを目的とする。その際、美術史学の主たる研究対象である典礼書、教会建築・彫像等の図像群ではなく、従来その文面のみが歴史学の分析対象とされてきた国王(皇帝)証書という史料類型に着目し、その書体・レイアウト・記号(モノグラム、クリスモン)・印璽に関する基礎データを収集し、その外観と文面との関連性を追究する、独創的研究である。3年間の研究の目的の第一は、散在するオットー朝国王証書の図像データをドイツ・イタリア・スイスの文書館から集め、これをリスト化することであり、第二はそのデータに立脚した基礎研究を行うことにあった。3年間の研究期間の最終年度にあたる平成18年度は、まず平成18年4月1日より研究代表者の所属研究機関が変更となったことに伴い、研究遂行に不可欠な機器を揃えた。その上で、過去2年間で収集しきれなかった証書画像を収集すべく、夏期に関連の文書館・研究所のあるドイツ・イタリアに渡航し、収集活動をおこなった。また、ドイツ・マールブルク大学の付属研究所で、ドイツ国王証書原本の写真を所蔵している「中世証書原本写真アルヒーブ」に対し、紀元千年期の国王証書のうち同アルヒープがもつ全点について紙媒体への複写を依頼し、これを入手した。年度を通してこれらデータの整理と基礎研究を進め、その一部は論文・共著の形で公刊した。収集した画像史料のデータベースおよびこれに基づく基礎研究の成果はさらに、データベース、論文の形での公刊を目下準備中である。
|