平成16年度〜18年度にかけての三年間に、アメリカ合衆国における先住民教育改革の歴史的検討という研究課題に基づいた研究を行なった。具体的には、土地制度や先住民の法的地位の変遷と対先住民教育政策の変遷を関連づけて、その歴史的意義を分析する作業を行い、研究会での口頭発表や論文発表を行った。2005年に一橋大学に提出した博士論文は、その集大成である。その要旨は以下の通りである。本論文は、20世紀前半の南西部の先住社会に焦点をあて、「インディアン」/「市民」という法的地位がどのように国家側から特定集団に付与されたのか、それに対して先住社会ではいかなる対応がみられたのかを論じたものである。具体的には、プエブロとナヴァホ(と国家によって同定された先住社会)に即して、「異国の自国化」のための必須の制度・機関である土地制度、法的地位、学校教育の三つの領域を重視し、諸施策の共時的な展開と通時的な変遷を関連づけて考察した。その結果、「インディアン」という曖昧な法的地位はその時々の為政者の都合で様々に解釈されてきたものの、南西部では、先住民側がその解釈の揺れを利用しうる余地があったことが示された。さらに、先住者としての諸権利(一定領域の占有権など)を主張する人々のあいだでは、市民として市民的諸権利(参政権など)を享受することは、自治権の制約などのある種の支配を伴うとの懸念があったことも明らかにされた。 その他、「先住民・フロンティア・ボーダーランド」(紀平英作・油井大三郎編『グローバリゼーションと帝国』ミネルヴァ書房、2006年)など数編の単著論文を発表した。現在は、2007年度にこれらの論文と上述の博士論文をまとめて出版すべく、加筆修正中である。
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