研究概要 |
弥生時代ガラス製品出土データベースは,昨年度作成のものの更新作業を行い,今年度は鳥取県,佐賀県,長崎県について新たに作成した。確実な最古例は,福岡県福岡市雀居遺跡の土壙墓から出土した前期末の例である。中期の出土例は福岡県,山口県に見られるが,全体の事例が少ないので出土状況を慎重に検討する必要がある。 製作技術に関する所見では,紐孔の実体顕微鏡観察から,再加熱時の軸材について植物性の材質を想定するに至った。これは,紐孔の断面形態および紐孔内壁に残存する縞状の痕跡の分析による。今後更に高倍率の顕微鏡等による観察により植物の種類の特定につながる特徴を見出す必要がある。 色調の観察では,Munsell Color Systemを利用した。これにより,主要な色調を,Mansell hueによる5PB系統(従来の紺色系統)5B(従来の水色系統)5BG(従来の緑色系統)の3系統およびValue/Chromaにより把握することを試みた。各遺跡で,5PB・5B・5BG系統の各色調についてValue/Chromaは統一的で,色調の偏差が小さいことがColor System上からも判明した。また,各系統の構成比率が,各遺跡で異なっており地域的な傾向が見られることが判明した。北部九州地域では,糸島地域や福岡平野では5B系統の比率が高い。やや南下した筑紫野・小郡市域では,5PB系統の比率が高く,西方の佐賀平野でも同様の傾向が見られる。 外部形態の比率では,各遺跡・地域で特徴が見られる。福岡平野では,紐孔方向の厚みが相対的に大きいものが多いのに対して,小郡市域・佐賀平野では小さいものが多い傾向にある。このように色調・外部形態に見られる地域的特徴から,ガラス小玉生産または入手が各平野単位・遺跡単位といった小さな単位で行われていた可能性を指摘しうるが,分析事例を増やして結論づける必要がある。
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