研究課題
本研究において主要な対象とする、西日本縄文時代後半期は、東日本由来の文化要素が波状的に西漸する時期であり、また、後続する弥生時代開始期も韓半島からの稲作農耕に関する文化情報が体系的に流入する時期といえる。つまり、西日本縄文時代後半期は長期的にみて異文化接触と文化変容が顕著な時期といえる。本研究は、当該期における他地域からの影響による所の大きい文化変容の動態と社会動態の相互関係について、集落遺跡における空間構造の分析、隣接分野における社会モデルの比較検討という項目を軸に、明らかにすることを目的とする。今年度は上記のような先史社会論を進める上で近年重要な社会モデルとして採用されることの多い北米北西海岸地域狩猟採集民社会の民族誌モデル、及びその縄文時代研究への適用の現状についての批判的検討を行い、縄文社会論研究の現状と問題点についての整理を行った。その結果、先史社会論を行う上での民族誌モデルの適用に際し、(1)民族誌自体の歴史性についての検討の必要性、民族誌モデルと考古事象を接合するミドルレインジ・モデルの体系的構築の必要性が、縄文社会論を構築する上での大きな問題となっていることを明らかにした。また、このような社会論構築の基礎的作業として、上記のような研究現状の批判的検討を踏まえた上で、当該期の九州地方における土器からみた地域性についての議論と集落構造からみたよりミクロなレベルでの社会編成の問題について検討を行った。現段階では、九州地方を中心とした西日本における縄文時代後・晩期を前後する時期については社会編成がより複雑化していくものと考えたが、それは近年議論されている社会の垂直的格差の増大というよりは、むしろ水平的な社会の分節化が進展しているという点について明らかにした。これらの研究成果の一部は、昨年夏韓国・大田で開催された東アジア考古学会において口頭発表を行った。また、狩猟採集民社会民族誌モデルの先史社会論への援用にかかわる諸問題についての研究及び、それらを踏まえた個別研究についての論文を現在準備中である。
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東アジアと日本-交流と変容-九州大学21世紀COEプログラム(人文学)東アジアと日本:交流と変容 第2号(印刷中)
Interaction and Transformations : Bulletin of Japan Society for the Promotion of Science21st Centry COE Program(Humanities) Vol.2(印刷中)