西日本を中心とした古墳出土木製品の集成の結果、分布が集中する地域は、奈良盆地、滋賀湖南・湖東地域、大阪河内平野で、「木のはにわ」出土古墳の分布とほぼ重なることが明かとなった。そのなかの滋賀県草津市狭間遺跡1・3号墳で、新たな出土例を確認した。5世紀後半の1号墳には、石見型・笠形・鳥形木製品の「木のはにわ」と儀仗形(さしば状)・刀形木製品の威儀具・祭祀具が確認された。この器種組成はこれまで奈良県橿原市四条1号墳、同県天理市小墓古墳・御墓山古墳でしか知られていなかったもので、奈良盆地以外の地域では初めての確認例である。両地域が、木製品の樹立・使用・製作などで密接な関係にあったことが改めて確認できた。ただし、後三者には前者にはみられない木製品があり、また各品目の出土量も圧倒的に多く、木製品器種組成・出土量においての格差も認められた。このような傾向は両地域のほかの木製品出土古墳を比較しても認められるところであり、分布の中心の地域間で格差が存在することがわかった。北陸地方や関東地方においては、弥生時代〜古墳時代の集落遺跡から多くの木製品が出土しているにも関わらず、古墳出土木製品がほとんど確認できなかった。前述の分布の中心から離れると古墳要素のなかから棺以外の木製品の使用・樹立という属性が欠落していく可能性が考えられる。一方で、石見型木製品などが出土している福岡県前原市釜塚古墳のように、遠隔地にあっても分布の中心域と何らかの関係をもった古墳が存在している。奈良盆地、大阪平野の前・中期の巨大古墳の周濠から木製品が出土する例はほぼ普遍的に認められ、古墳に関わる儀礼、古墳の装飾において重要な要素となっていたことがわかる。その一方で中期以降、同地域の中小古墳の事例をみると、同じような立地環境にあって、木製品の出土する古墳、しない古墳があり、またその組成・出土量にも差異が認められる。おそらく巨大古墳を中心とする木製品の樹立・使用形態から、いくつかの諸属性が欠落する中小の古墳、全く存在しない中小の古墳が存在し、木製品における古墳間の格差があったと考えられる。そして周辺地域との間では更に格差が生じるのではないかと考えられる。
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