研究概要 |
本研究全体の課題は,日本の農山漁村における民俗的な空間分類体系について,住民の社会経済階層ごとの差異,またその要因となる条件を明らかにすることである。特に各戸の来歴・家格・経済状況・生業構成などの相違によって,水利・林野・漁場などへのアクセス権,生業形態,生業行動範囲などが異なることに注目し,これらが実際の空間分類体系の差異に,どのように影響しているのかを問題とする。本年度は,一集落内部の住民の生業構成や社会構成を詳細に検討するために,丹後半島の定置網漁村を事例として,複合生業形態と家格という2つの問題に焦点を絞った。 第一の研究では,鰤定置網が導入された明治末期以降から現在までを4期に区分し,複合生業形態の歴史的変遷を明らかにした。次に,家ごとの生計戦略が最もよく現れていた昭和初期に注目し,戸別の生業形態を類型化した。すなわち上層は,公務員+農業型,農漁業+出稼型,船員+出稼型,農業+多角型,中層は,漁夫+多角型,農業型,下層は,出稼+船員型,零細多角型であった。さらに,住民全般について,共同体的規制をうけた小資本家的かつ季節労働者的な多角経営型農民,という生業上の特性を見出した。 第二の研究では,このような生業構成や社会構成を規定し得る伝統的階層として,家格の問題を扱った。家格は,他の社会階層指標とは別個の固定的指標としては必ずしも厳密には扱われてこなかったが,本研究ではそれを寺院の位牌順に見出した。さらに,実際に村落社会の身分秩序の基準としてどの程度まで影響してきたのかを,大正期から現在までを対象に計量的に測定した。家格は,土地所有や所得などと比べて,各社会組織の役員就任に対する影響力は強く,特に宗教組織と区会において顕著であった。これに対して漁協では,影響力はかなり小さかったことが明らかになった。 次年度は,これらの結果を踏まえて,空間分類体系の分析を行う予定である。
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