研究概要 |
本研究全体の課題は,日本の農山漁村における民俗的な空間分類体系について,住民の社会経済階層ごとの差異,またその要因となる基本的条件を明らかにすることである。本年度は,広義の社会階層の問題として,集落内部での空間分類の性差(男女差)にっいて検討した。具体的には,信州諏訪の農山村,および丹後半島の漁村を対象として,研究を実施した。 第一の研究では,長野県諏訪地方の下諏訪町萩倉を事例として,主に高齢層男性からの聞き取りにもとづいて,村落空間に関する分類体系の全体像を明らかにした。この研究は,本研究課題の開始前に着手し,すでに実績を公開していたが,今回,若干の補充調査を行い,従来の英仏語圏の空間記号論に対する批判的研究として位置づけ直して大幅に修正し,記号論の国際誌に改めて公表した。この萩倉集落における,女性の空間分類の実態解明については,来年度以降の課題としたい。 第二の研究では,丹後半島の京都府伊根町新井を事例として,男女の生業差とそれにもとづく空間分類体系の差異について明らかにした。新井では,男性がブリの定置網を中心とした漁業,女性が田畑での農業に,それぞれ主に従事してきた。女性は,田畑の一筆一筆や薪採集用の林野などを詳細に分類していた反面,海域の分類は非常に粗く,主に漁業で用いる風位や潮流はほとんど認知していなかった。これに対して,男性は,田畑や林野の分類は女性に比べて粗かったものの,海域を非常に詳細に分類し,方位・風位・潮流なども体系立てて分類していた。この事例研究は,研究代表者のこれまでの農山漁村の空間分類に関する研究と合わせて,著書として出版した。
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