本研究は、フィールドにおける多様な社会・文化的立場とその相互の関係性・混淆性を動態的に把握する「多声・動態的民俗誌」の制作過程をとおして、新たな民俗学パラダイムとしての多文化主義民俗学の方法論構築をめざそうとするものである。 初年度である本年度は、「多声・動態的民俗誌」制作のための現地調査を、大阪市西成区鶴見橋商店街一帯において実施した。具体的には、当該地域の形成史、住民の居住・移動・定着過程、階層構造、改良住宅団地における生活様式、在日朝鮮人経営の飯場における「日本人」-「朝鮮人」関係の実態等について参与観察を実施した。そして、そこで得られたフィールドデータ等について、アルバイトを雇ってパソコン入力を実施した。 また、調査の進展とともに、民俗誌記述をめぐる理論的バックボーンを強化させる必要があることが明確となったため、従来の民俗誌論では手薄であった社会学のエスノグラフィー理論について、研究論文等を収集、解読し、これと民俗学理論との照合、接合を行なった。そしてその成果をもとに、当該地域の民俗誌データの分析・解釈を進め、今後の調査・分析の基本的枠組み(「地域に暮らす多様な人々は、それぞれ朝鮮半島系住民、奄美・沖縄系住民、中国系住民、被差別部落住民、寄せ場労働者、などにカテゴライズされる。しかし、生活当事者にとっては、そうしたカテゴリーそのものよりも、自らをとりまくさまざまな資源(そこにはカテゴリー自体も含まれる)を選択・運用する際の<生きる方法>のほうがより重要である。そしてこの<生きる方法>こそが、多文化主義民俗学でいう<民俗>である」等)を設定した。 次年度は、上記の枠組みにもとづいて実態調査を進めるとともに、そこでの成果をもとに枠組みの微調整を行なう。そして、それをふまえて記述の作業に着手することが課題である。
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