本研究は、「多声・動態的民俗誌」の制作過程をとおして、新たな民俗学パラダイムとしての多文化主義民俗学の方法論構築をめざそうとするものである。 本年度は、昨年度に引続き、大阪市西成区鶴見橋商店街とその周辺地域において民俗誌作成のための調査を実施した。その結果、住民のコミュニケーションの動態、寄せ場や簡易宿泊所街における生活様式、スラムクリアランスと街づくりとの関わり、地域一帯の多文化性、などについてデータを多くの収集することができた。 加えて、上記の調査の過程で、他地域における寄せ場の構造との比較や、他地域の被差別部落とのネットワークについての確認などの作業の必要性が浮上したため、東京山谷地区(寄せ場)、和歌山県新宮市・御坊市(被差別部落)での調査も実施した。 また、本年度は、日本社会学会の「差別・マイノリティ」部会、オーラルヒストリーの会、にそれぞれ出張し、理論面の最新情報を入手するとともに、近接領域の研究者とのネットワークづくりを行なった(その結果、関西方面の複数の研究者との間で本課題に関する有益な情報交換が頻繁に行なわれるに至っている)。 文献資料の整備に関しては、本年度は、寄せ場・野宿者問題を中心とする社会学的研究や、シカゴ学派都市社会学(都市のエスノグラフィ)に関するものを中心に実施したが、これらの資料は、本課題の理論的枠組みの強化に資するところ大であった(成果の一部は別掲論文として刊行済み)。 次年度は、民俗誌の記述をさらに厚みのあるものとすべく西成区での調査を継続するとともに、他地域との比較の観点も積極的に導入した記述、分析作業を展開したい。また、本年度に予定していながら、校務日程の関係で実現できなかった日本民俗学会での学会報告(本課題の中間報告)も実施する予定である。
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