本年度は、2月8日から3月2日まで、アフリカ、カメルーン共和国で現地調査を実施し、千年度の成果と合わせて、内容をまとめる作業を続行した。 カメルーン共和国では、主として儀礼実践に関わる情報収集、映像・音声による資料の収集を行った。昨年度は「アバレ」、「エンボアンボア」のビデオ資料を得ることができたが、今回は、これに加えて、森に住むと考えられている精霊のための儀礼「リンボ」の進行過程のビデオ記録を得た。さらに、呪術医による託宣・治療儀礼「ンガンガ」に関して、呪術医自身からの聞き取りを行った。昨年度は特にライフヒストリーの収集に焦点を合わせたが、今回は、宗教的な観念について関心を向けた。バカの間では、人間は死ぬと、精霊(バカ語で「メ」と呼ぶ)となって、森に移り、これを儀礼で演じることが一般的である。これとは別に呪術医による託宣・治療儀礼「ンガンガ」が行われる。この儀礼は、「メ」とは直接的には関係ないとされるが、「ンガンガ」に関する宗教的観念についての聞き取りを行うと、実は間接的に両者は関係しあっていることが分かってきた。「ンガンガ」において、呪術医は「モリリ」という超自然的存在の助力を得るとされている。「モリリ」は、生きている人間や動物に内在する生命力のようなものだと考えられている。生き物が死ぬと、「モリリ」は体から抜け出て森に移り、「メ」となるという。ここにはバカの循環的な生命観を読み取ることができる。バカの宗教観について考察を深め、いわゆる狩猟採集民の「アニミズム」についての知見を広げることができると考える。 国内においては、今年度は、昨年度に得られた映像資料を整理し、研究発表に利用した。特に、儀礼とそこにおけるダンスの動的過程をビデオ資料の形で整理し、11月26日および11月27日に日本モンキーセンターで開催された第50回プリマーテス研究会において発表した。ビデオ媒体による研究資料は、本研究において必須の要素であるが、論文等の形で発表することが難しい。来年度の課題としたいと考えている。
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