当初の計画では、初年度である平成16年度については中華人民共和国と台湾両地域で研究を行う予定であったが、結果的には台湾での研究を専らとした。なぜなら、8月に台湾で研究を行った後に、文部科学省「平成16年度海外先進教育研究実践支援プログラム」の採択が決定し、11月末からは台湾へ長期出張することになったからである。 平成16年度に台湾で明らかになった点は、下記の通りである。 1.多言語容認政策が推進されるに従い、人々の間でも、かつて「国語」と呼ばれていた共通語は「中文」・「華語」などと呼び改められるようになった。政府文書(公報)などでも、「国語」と共に「華語」が使用されている。 2.言語教育の実施(推進)状況から見ると、台湾の人々の母語である「台語」、「客家語」、「原住民族語」の教育と共に、外国語教育の中の英語教育偏重が顕著である。理由としては、国際社会(国際連合など)への再加入を前提としていることが考えられる。 3.『語言平等法』検討の結果、改めて『国家語言発展法』が考案された。新・言語法である『国家語言発展法』は、『語言平等法』と比較すると具体性に欠く。顕著なのは、旧・法案では第二条「用詞定義」に具体的な言語名が挙がっていたのに対し、新・法案ではこれが全く見られないことである。改変内容についてはさらに詳細に検討しなければならないが、その際には中華人民共和国の『国家通用語言文字法』との比較も必須である。 以上のように、現在の台湾では、中国を切り離す形での台湾化の推進(中国からの自立)と、中国を含む国際社会への進出(中国への依存)という2つの方向性の中で、推進すべき言語政策も試行錯誤の段階にあると考えられる。
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