現在のIT革命と呼ばれる、コンピュータをコミュニケーションツールとして活用しようとする社会の流れないし現象を憲法のレンズを通してみると、サイバースペースがきわめて民主的なメディアであり、様々な情報を誰もが低コストで送受信できる点が特に注目される。わずかな資力と設備しかもたない一個人さえもが、世界中の不特定多数の人々に向けて自己を表現することができ、それと同時に、受け手としても従来のマスメディアには見られないような、多様な観点にもとつく多彩な表現内容を入手することが可能となりつつある。しかしながら、その一方で、わいせつな表現や名誉毀損的表現、あるいは差別的表現等もサイバースペース上で流通していることも事実である。わが国においてもサイバースペース上のこうした表現をめぐる紛争・訴訟が生じるようになってきており、これに対する法的手当ても始まっているが、学説側の対応は未だ不十分であるように思われ、アメリカにおける状況と比較すると極めて対照的であるといえる。 私の研究は主としてアメリカにおける判例・学説の全体像を明らかにする中で、(サイバースペース上の表現の自由をいかに守るかという点を基底におきつつ)わが国へのアメリカ法理論の「移植」可能性を模索するものである。 本年度は、情報ネットワーク法学会第5回研究大会(於 南山大学)における研究報告を基にした論説を公表したほか、判例評釈と(分担執筆の)教科書を執筆・公表した。来年度は、今まで書いた論文をアップデートした上で、単著としてまとめる予定でいる。
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