憲法学における国家教育権論と国民教育権論の伝統的な対立に融合をもたらす可能性を秘めた近隣政府の機能、役割を分析し、公教育における「国家」と国民」の接点を発見する研究を進めてきた。 本年度前半はおもに学校評議員制度や教育権論、ひろく教育改革に対する憲法学の立場をめぐる基礎理論研究を行った。当初、学校評議員制度を中心に取り組んだが、研究を進めていくうちに、先行事例である学校協議会など地方独自の制度のほうがより先進的な機能を営んでいるという事象に触れた。とくに、本年度後半に調査のため訪問した自治体のうち、東京都世田谷区では、地域と学校の連携を強くしたり、より広域な中間的協議会のような枠組みを設置したりするなど、アメリカ型教育地方自治制度に近い制度が採用されている。また、埼玉県鶴ヶ島市では、学校協議会設置の準備段階から地域住民の声を直接入れたり、構成員に生徒代表を含ませたりするなど、非常に独創的な運営が行われている。学校にも直接赴きたかったが、各学校に設置されている評議員会あるいは協議会の開催日程に合わせることが難しく、それはできなかった。一方、当該諸制度を管轄する各自治体の教育委員会担当課に協力を求めたところ、資料収集を含めその協力を得ることができた。世由谷区では小学校2校への訪問を、鶴ヶ島市では中学校1校への訪問(傍聴自由)をすすめられた。前者は学校と地域の連携の「発祥の地」であり、後者は協議会開催ごとに冊子を発行するなど活動が活発な学校である。 以上のように、本年度は、基礎理論研究と訪問調査研究を合わせることで、公教育に関する近隣政府の理想モデルの探究を進めることができた。
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