教育権の所在をめぐる議論、すなわち、国家教育権論と国民教育権論の伝統的な対立に融合をもたらす可能性を探るため、教育近隣政府の意義や機能について検討してきた。 昨年度に引き続き、本年度前半から、日本国内の自治体で展開されている学校評議員制度や学校協議会制度など、教育近隣政府の調査研究に赴きたかったが、時間的制約により実現できなかった。本年度後半は、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市の学校評議会について調査研究及び資料収集を行うことができた。シカゴ市には公立学校が約540校あり、学校ごとに学校評議会を設置し、そこに教育に関する権限を委譲している。アメリカにおける教育統制は独立期のニューイングランド諸州の伝統を色濃く残しているため、日本と単純に比較するわけにはいかないが、それでも日本と比べると、教育に関する権限が非常に多く委譲されている。 もっとも、当初は、権限委譲をしている以上、評議会にかなり大幅な裁量が認められているのではないかとの認識を持っていたが、実際はそうでもないような印象を抱いた。というのも、裁量の幅を大きくとればとるほど、それに対する評価制度も充実するようになり、その評価制度が評議会の自律性を損ねるような機能を営んでいるのではないかと感じられたからである。新自由主義社会において席巻しているNPMが先駆け的に導入されていたと解してよいのかどうか、そこまでの検討はできておらず、今後の課題として残った。一般論を言えば、教育近隣政府の確立は学校の自律性を促すはずであるが、そこにNPMが組み込まれると、その自律性は減退するはずである。評議会相互の自律的な連携のもとに改善を図る仕組みが構築されているかどうかが重要であると思われる。 なお、研究発表については、本研究の最終年である、平成18年度に行う予定である。
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