憲法学における国民教育権論の現代的変容が、国家教育権論と国民教育権論の間の伝統的な対立に融合をもたらす可能性があるのではないかとの仮設を立て、その実証的研究を、基礎理論研究を基調としながら、進めてきた。なかでも、平成16年度より、教育近隣政府の意義や機能について検討してきたが、平成18年度(本年度)は、純粋な公権力ではなく、また、純粋な私人でもない教育近隣政府が、公教育における「国家」と「国民」の接点をいかにして作り上げていくのかといったことに焦点を絞りつつ、3箇年に渡り進めてきた研究成果を取りまとめることに主眼を置いた。本研究を通じて理解できたことは、昨今の教育改革に見られる「公」概念が、従来から変容してきていること、また、多様化してきていることである。そして、この教育をめぐる「公」概念の変容と多様性について、憲法学は、いかなる視点から論じるべきかを、未だ定めきれずにいるのではないかということも認識できた。すなわち、国家が公教育から撤退している側面を強調し、当該側面を否定的に評価するのか、あるいは、学校評議員制度や学校協議会制度などのような「学校参加」の枠組みを設定している側面を強調し、当該側面を肯定的に評価するのか、という2つの側面に対するそれぞれの評価の間で、憲法学は揺れ動いているということである。自治教育統制像の探求の帰結は、教育に対する民主的統制をいかに図るべきかといった論点や、教育に民主的統制を導入すること自体に特定の価値観の注入を予定する効果があるのではないかといった論点をめぐる、現段階での私見に集約されている。
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