本年度は、現代フランス憲法学基礎理論研究の第一段階として、いわゆる憲法慣習論、憲法変遷論に関する研究を行った。フランスにおいてこのテーマでまず参照されるべき論者は、ルネ・カピタンであり、本年度の研究は、カピタン研究のいわば序章ともなった。 まず、フランスの憲法慣習論を日本に最初に紹介した樋口陽一(東京大学名誉教授)の古稀記念にあたり、樋口教授も検討していたルネ・カピタンの憲法慣習論を批判的に再検討する研究を行い、公表した。カピタンの慣習論は、慣習のみならず、法理論一般に展開されうる重要な問題提起を含んでいるように思われ、その点を掘り下げて研究することが来年度以降の課題の一つとなるだろう。 次に、現代フランス憲法学基礎理論を代表する論者であるミシェル・トロペール(パリ第十大学教授)の慣習についての論攷を翻訳し、公表した。法理論について精力的に論攷を発表し続けているトロペールについては、来年度以降も引き続き検討を行う予定である。さらに、関連して、ルネ・カピタンとカール・シュミットのナチス期における知的交流を検討するオリヴィエ・ボー(パリ第二大学教授)の論攷をも翻訳し、公表した。 これまで日本の憲法学界においては、憲法変遷論という名のもとに、主としてドイツ国法学の議論が紹介されてきたのみであり、フランスの憲法慣習論についての紹介・分析を行う研究は、樋口教授のものをのぞけばほとんどなかった。そのようななかで、本年度の私の研究は、日本の憲法学界に対して大きな貢献をなしたものであると考えている。 また、これらの研究成果をふまえ、2005年2月および3月に、フランスのリール大学法学部において修士課程および博士課程の学生を対象に、ルネ・カピタン、憲法慣習論等についての連続講義を行っている。
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