本研究は、国際協調主義が罪刑法定主義の要請を緩和するかという問題を扱うものである。国際関係の緊密化に伴い、国際法が規律する事項が著しく増加している。しかし、国内法制の統一ないし調和化を目指して起草される多国間条約等においては、規定の態様や精密さにおいて、国内法との懸隔が指摘されることが少なくない。とりわけ国際刑事法の領域では、条約の定める構成要件が、憲法の要求する明確性の原則との間で問題となる。そこで、本研究は、これまで十分に検討されてこなかった、日本国憲法における「国際協調主義と罪刑法定主義の調整」を考察することを目的とするものである。 そのような調査等に基づいて、研究計画初年度である本年度は、まず、欧州諸国の対応との比較法的検討を主軸とするという当初の研究計画に基づき、欧州人権条約における生命権の保護と適正手続の保障との関連性について検討し、別途の研究会の機会を利用して欧州人権裁判所の判例について報告し、討議した。また、国際刑事法についても、文献を収集し、検討を進めた。なお、調査・検討の進行状況に鑑み、当初の計画では2年度目に実施する予定であった国外での調査を前倒しすることとし、ロンドン大学高等法学研究所に赴いて調査を行った(外国旅費を支出した)。 本年度に検討した問題は、本研究が行う検討の前半部分に当たるものである。そのため、今年度の段階では、本研究の成果を総合的に発表した論文等はない。 このようにして、本年度においては、資料・文献の渉猟・整理・分析を進め、成果の公表として最終的に執筆する予定の論文の構想を具体化することに努めた。
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