本年度は、まず米国におけるハイテク産業の競争法的問題を検討した。これまでわが国において紹介されたことのない「市場の中の競争(competition in the market)」と「市場を求めた競争(competition for the market)」という概念を明らかにして、米国における判例法を検討した。「市場を求めた競争」とは、ハイテク産業を特徴付けるイノベーションやネットワーク効果等を包含する上位概念であり、同概念を用いることによって、ハイテク産業における市場分析のあり方を再構成することができるものと考える。そこでの重要な発見は、米国の反トラスト法において、「市場を求めた競争」も価格競争等と同じく価値あるものとして法的保護の対象となっているということである。 同発見により、伝統的な反トラスト政策とハイテク産業における反トラスト政策との連続性を示すことができ、実務上もインテル事件やマイクロソフト事件等、わが国の独禁政策に直接的な示唆を与えるものであると自負する。同研究成果は阪大法学に「ハイテク産業における企業結合規制」として公表することができた。 さらに、EUにおける政策も検討を開始しており、事件研究を進めることができた。米国とは異なる競争法原理が存在すると言われるEUにおいてどのような政策が採られているのか、また米国における政策との違いは何かを分析することが、来年度以降の課題である。これまでの研究を継続することにより、大変興味深い成果が期待できるものと考えている。
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