本研究では、まず、我が国において進展している変革として一般に指摘されている、公益事業を中心とした規制改革を念頭に置き、経済法との関係で提起される市場支配的地位の確立をめぐる問題を取り上げている。その市場支配的地位の濫用行為を規制することを手がかりとして、競争促進的な経済法制及び紛争処理の在り方を明らかにすることを試みている。 まず、公益事業として従来独占が認められてきた分野である電力エネルギー及び電気通信業において、競争原理の導入のために決定的な意味を持つと思われる、ネットワークないしはいわゆる不可欠施設へのアクセス規制の内容について、ドイツ法を中心にした比較法的検討を行った。ドイツでは電力エネルギーセクターにおいて、競争制限防止法を手がかりに不可欠施設のいわゆる共同利用が促進されているが、その不可欠施設の利用料金に当否が論点になることが多い。もっとも、この利用料金の当否を判断することは容易ではなく、カルテル庁、裁判所による幾つかのケースの積み上げを基礎にして、理論を再構築する必要性があるように思われる。電気通信セクターにおいては、競争制限防止法の他に、主にセクター特殊立法である電気通信法が、電気通信セクターにおける規制・競争秩序を規定している。電気通信事業法においても、電気通信ネットワークのアクセス規制、料金規制を含んでおり、一定の市場力を有する事業者の濫用行為を規制することを重要な内容としている。もっとも、電気通信セクターにおいては、有効な競争が現時点では原則として想定しえないことから、その目的は電気通信市場における競争を創出し、確立することにあり、その濫用規制も競争制限防止法における濫用規制より、規制当局による介入の幅は広いと思われる。
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