本研究は、日本の失業時の生活保障制度のあるべき姿について考察することを目的とする。そのため、失業扶助制度と社会扶助制度の統合を実施したドイツに注目し、その動向とそこに含まれる法的問題点に着目した。 その結果、以下のことが分かった。ドイツでは、失業扶助制度と社会扶助制度にはともに失業者の生活保障を目的とする手当が存在し、その重複する部分を一本化し、「失業給付II」が創設された。そして、失業給付I(従来の失業手当)の受給期間を満了したにもかかわらず失業している者のうち、就業能力があり、十分な資産がないとされた者は失業給付IIを、就業能力も十分な資産もないとされた者は社会給付(従来の社会扶助)を受給することとなった。失業給付IIが存在する以上、ドイツの失業時生活保障制度が失業給付I、失業給付II、社会扶助という重層構造であることには変わりはないが、就業能力の有無によって対象とする給付を変えることで、就業能力のある者を積極的に労働市場に統合していくという方向性が打ち出されたといえよう。この方向性の変化は、失業給付IIが創設されると同時にその額が社会扶助水準にまで引き下げられたことや職業紹介を拒否した場合の給付制限が強化されたことなどからも裏付けられる。 しかし、就業能力の有無の判断基準、就業能力を有する者への就労機会の提供方法、給付制限を実施する際の期待可能性判断、失業給付II・社会給付と最低生活保障水準の関係など残された問題も多い。
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