本研究は、目本の失業時生活保障制度のあり方について考察することを目的とする。そこで、近時失業手当と社会扶助の統合を含む労働市場改革に着手したドイツを比較対象国として選定し、改革についての議論状況を参照した。 なかでも、失業手当の支給禁止の可否が争われたドイツの裁判例に着目した。というのも、どのような場合に支給禁止がなされるのかを検討することで、「失業」の意義を探ることができると考えるからである。ドイツの失業手当制度における支給禁止は、失業手当請求権を有する失業者であっても、自ら就業関係を解消した場合、職業紹介や職業訓練等を拒否した場合、職業訓練等を中断した場合に、12週間行われる(SGBIII144条1項)。日本の雇用保険制度にも類似の給付制限が存在する(雇用保険法32、33条)。この支給禁止の目的は、意図的に失業状態を作り出した者を手当の支給対象から排除し、被保険者の利益を保護することにある。しかし、「意図的」に失業したか否かの判断は難しい。ここで検討した事例では、企業再編の中での退職勧奨に応じた者が意図的に失業の時期を早めたのか、それとも、使用者の整理解雇の可能性にさらされてやむを得なく応じたのかが争われ、本判決は、同一企業内での配転可能性が残されているにも関わらず合意解約に応じた場合は、「意図的」な失業にあたると判断した。 今後はより多くの裁判例を分析し、「意図的」な失業についての判断基準の抽出に努めたい。また、2005年1月1日以降の規定には、求職等について自己の努力を示さない場合と報告を懈怠した場合の支給禁止期間の開始が加えられているので、最新裁判例も検討対象に加えることとしたい。
|