本年度は、第一に、裁判員制度を中軸とする刑事手続改革自体が適正手続保障上抱えている問題点の抽出、分析を行い、公判前整理手続において争点整理を行う過程で裁判官が証拠の内容に関する情報を得ることから予断排除原則が形骸化する可能性があることを明らかにした。さらに、公判だけに関与する裁判員が、裁判官との情報格差と裁判外で予め情報を得ているという事情が相俟って、証拠以外の資料による心証形成を遮断できない危険性があることを明らかにした。第二に、少年の刑事手続を手がかりに、裁判公開とそれに伴う裁判報道が、とりわけ少年の適正手続保障に深刻な影響を与えることを明らかにした。これらの問題はいずれも裁判員制度のもとにおいて、犯罪報道が適正手続保障にどのような問題を生じさせるのかという問題点を把握するための基礎的な研究として位置づけられるものであり、論文として公表した。 また、重大事件において行われた犯罪報道が弁護活動や被疑者の防禦権行使に対して、どのような影響を与えているかを把握するために、担当弁護士からの聴き取り調査を開始した。本年度は、まずアンケート項目を確定させる必要があったため、実際の聴き取り調査は、調査項目確定のための作業も兼ねたプレ調査一件にとどまったが、来年度以降は、確定したアンケート項目にしたがって、本格的な聴き取り調査に入る予定である。
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