日本と同様に、フランスもまた高齢化が進んでおり、そのような社会の変容にしたがって相続の意義もまた変容している。そして、それに対応するために、2001年12月3日の法律でフランス相続法が改正された。勿論、フランスの社会情勢と日本のそれには違いがあり、単純に比較することはさけなければならないが、基本的には共通する部分が多く、しかもフランス相続法と日本相続法は母法と嬢法の関係にあるために、若干の些末な違いを除けば基本構造は全く同じであり、今回の改正に至った経緯やそれまでの議論状況、既に指摘されている改正法の問題点などについて丁寧に調べることは非常に有益であると思われた。そのため、平成16年度は、改正に至った経緯を丁寧かつ詳細に調べた上でまとめて公表することを目標として研究を進めてきた。ところが、研究を進めるにしたがって、フランス相続法学の基本的スタンスに対して強い違和感を覚え始めるようになってしまった。その違和感とは、次のようなものである。今回の改正は、夫婦の一方の死に対する準備をしていなかった場合の補足的・代替的手段を講じるものであるとしている。しかし、遺産の一定割合の分与や用益権などといった方法では、生存配偶者が今後の生活において本当に必要なものを十分かつ適切に与えられるとは限らないのではないだろうか。ベニエ氏は、相続上の権利が人権という観念に支配されていると言うが、本当に生存配偶者の今後の生活を保障しようと言うのならば、今回の法改正の不完全さについて厳しく批判すべきではなかっただろうか。とはいえ、相続法が民事実体法である以上、このようなオチをつけざるを得なかったのであろう。ということは、本当に生存配偶者の今後の生活保障を考えるならば、相続法の枠を超えて、隣接法領域との更なる密接な連携による総合的支援システムを構築する必要があるのではないだろうか。
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