本研究の成果は、平成18年に新日本出版から出版予定の『現代 家族法実務大系 第3巻 相続I(総論・相続・遺産分割・渉外)』において、「配偶者相続-夫婦財産制とのかかわりにおいて」というタイトルで公表する予定である。その概要は以下の通りである。 配偶者の相続は、とりわけ専業主婦や高齢生存配偶者にとっては他方配偶者の死後の生活保障という意味を有するため、その存在意識は非常に高いと言って良く、高齢化に伴ってそれは次第に高まっている。しかし、実際には潤沢な資産を有する者はごくわずかであり、法定相続分にしたがって取得した資産では今後の生活を維持できないことが多いであろうと思われる。他方の被相続人の子たちはというと、大抵の場合は遺産がなくても自己あるいは配偶者の収入によって生活が維持できており、生活保障という観点における遺産への依存度は、被相続人の配偶者のそれに比べて一般に低いと言って良い。そういう実態に即して考えてみると、高齢社会における相続では、血族相続よりも配偶者相続を優先させることによって遺産を生存配偶者に集中させる必要があるのではないかという着想に至りうる。しかし、他方で、先祖代々の財産が他家に散逸することを嫌がる人々も決して少なくない。従来は、財産の価値に重点が置かれ、人々の財産への思い入れやこだわりといった感情はあまり重視されてこなかったが、それは適切ではなかろう。この問題を解決する試みとして、夫婦それぞれの家の財産と夫婦が協力して形成した財産を区別して別々の承継規範に帰属せしめ、前者は原則として配偶者には一身専属的な用益権のみを認め、後者は離婚の際の財産分与の準則を応用して夫婦の財産を清算した上で血族相続人と配偶者に相続させるという試論を構築した。
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