本年度、つぎの二つの論文を公表した。1.「消費者契約法における内容規制の対象と保険約款」この論文は、消費者契約法における内容規制が、契約の給付内容を規定する条項にも及ぶのかという問題を保険契約に即して論じたものである。ここでは、保険契約の主要目的部分が市場における当事者間の取り決めに委ねられるべきとの基本的理解に立ち、保険約款において消費者契約法の内容規制の対象から外れる部分をどのように画定し、さらに、除外される部分をどのように規制すべきかという課題をドイツ法を参照し明らかにしている。私見によれば、任意規定からの乖離のないかぎり給付記述条項は消費者契約法の内容規制の対象とならず、その規制の仕方として、契約目的の危殆化基準による内容規制、透明性原則にもとづく規制、および、保険募集規制としての説明義務が考えられるとした。現在次年度に向けて、とくに透明性原則にもとづく規制についてさらなる考察を深めており、この規制の枠組みには約款の内容規制と情報提供規制との接点があること、また、わが国への示唆という観点では、その濫用的な取り扱いにも配慮しつつ約款の解釈方法のなかに適合的な位置づけを見出しうるのではないかという方向性を新たな知見として得ることができた。2.「保険募集人の権限と保険契約者保護-生命保険募集人の告知受領権をめぐって-」この論文は、生命保険募集人の告知受領をめぐり、保険契約者側と保険者との間で生じる紛争の実情を裁判例を参照することにより明らかにした上で、生命保険募集人の告知受領権の有無につき、保険者に私法上、権限明示義務が課されているとすることによって保険契約者保護を図るべきことを論じたものである。
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