裁判外紛争処理手続(ADR)の中でも特にアメリカにおける調停(mediation)プロセスに関して論じられている「技法」に焦点を絞り、それらの技法の背後にある社会観との連関性について議論の整理をはかった。モデルとしては、(1)フォーマルな紛争解決システムと比較した場合の長所である柔軟性、迅速性、合意性、当事者の高い満足度、経済的および心理的低コスト性を強調するモデル(このモデルはいわゆるwin-win解決を評価する)、(2)調停をコミュニティの組織化をサポートする手段とするモデル、(3)調停において紛争当事者間の相互理解(recognition)を促進し当事者自身を強化(empowerment)することを強調するモデル(transformative approach)、および(4)調停プロセスのインフォーマリティが調停において強者の論理を無条件に拡張しかねないことを警戒するモデル(ゆえに調停プロセスのルール化を促進する)に分類することができよう。他方、これまでアメリカにおける調停実務においては、調停実務に携わる人々はたとえモデル(2)や(4)を論じる者であっても、その背景的な観点としてはモデル(1)をもっとも得心のいくものであると考え、個別の紛争を「解決すること」を最終目標とする傾向にある。これに対して、モデル(3)は調停過程における最終的な解決形態(合意性や柔軟性)に着目するのではなく、調停過程での両当事者と調停者のかかわりの中で、当事者自身が相手の立場を理解し変化していくことにより解決を見いだすことができると考える。訴訟を中心とする紛争の争点を確定しその部分のみを解決する紛争処理手法が、多くの場合両当事者に決定的な関係断絶をもたらすのに対し、このモデル(3)では当事者自身が紛争処理を通じて相手方をはじめ種々の利害関係人と関係性を形成することが可能となる。このことに個別の紛争解決を超えた社会的公共的意義を見いだすことができる。
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