本年度は、著作者人格権の保護範囲について、比較法観点から検討を深めるとともに、検討対象を同一性保持権、氏名表示権および公表権に拡大したうえで、わが国における判例・学説の網羅的分析および解釈論を検討することが計画されていた。 この計画にしたがって、本年度は、まずわが国におけるすべての著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権・その他)について、比較法的観点からその位置づけを明らかにし、これを英文により論文を執筆した。この成果は、マックスプランク研究所のクリストファー・ピース博士の編集になる、『COPYRIGHT IN JAPAN』(FS-Schricker)と題する書籍の一部(第5章「Moral Rights」)として、Kluwer社からまもなく刊行予定である。これにより、わが国における著作者人格権に関する研究が、国際的に参照可能な形で公表されることになったことの意義は小さくないものと考えている。 また、本年度は、当初計画されていた以上のような内容に加えて、著作者人格権に関する立法的課題についても積極的に取り組んだ。これは、ちょうど文化審議会著作権分科会において、著作者人格権に対する立法的検討の必要性が指摘され、これを受けて、体系的研究が始められることとなったことに由来する。すなわち、こうした著作者人格権に関する立法論的研究が国内において盛んになることを見越して、あらかじめこの問題をめぐる論点整理と従来の議論の総括をおこなったのである。そして、その研究の成果は、すでに早稲田大学21世紀COEプログラム研究会(2005年1月31日、於:早稲田大学大隈会館)および情報ネットワーク法学会著作権研究会(2005年1月27日、於;慶應大学)において、「著作者人格権の立法的課題」と題する研究報告をおこなった。さらに、この内容をまとめた論文「著作者人格権の立法的課題」が、近く発行される『中山信弘先生還暦論文集』(弘文堂)に掲載される予定である。 以上のように、本年度は、当初の計画以上に大きな成果が得られ、その成果はすでに公表され始めているところである。
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