本年度は、著作者人格権に関する契約の有効性を研究することが計画されていた。そして、具体的には、2002年のドイツ著作権法改正において、著作者人格権に関する法律行為の効果を明確化する法案が提出されたものの、最終段階で改正対象から除外されたという経緯について、当時の議論を検討することを予定していた。 この計画にしたがって、本年度は、ドイツ文献の渉猟によって網羅的な情報収集を試みた。その結果、ドイツ著作権法の2002年改正当時のさまざまな議論が浮かび上がってきた。このあたりの事情はこれまで闇に包まれたままであり、少なくともわが国においてはまったく知られていないものである。この論点については大きな成果が上がったので、まもなく開催される著作権法学会(2006年5月27日)において個別報告として発表する予定である。これは学会誌「著作権研究」において公表されることになる。 また本年度は、当初予定していなかったが、社団法人著作権情報センターにおける著作者人格権研究会に委員として参加することになった。これは、文化審議会著作権分科会において著作者人格権に関する検討の必要性が指摘されたことを受けて設置されたものであり、斉藤博専修大学教授、大渕哲也東京大学教授、潮見佳男京都大学教授等をメンバーとする最先端の議論の場となっている。本年度はこの研究会において、基礎的・体系的な観点から多大な研究を深めることができたことを指摘しておきたい。 なお、本年度は、昨年度の研究成果として、共著書(クリストファー・ヒース博士および斉藤博教授の編集による『JAPANESE COPYRIGHT LAW』(シュリッカー教授還暦記念論文集)が出版されるに至った。これはKluer社より世界的に広く刊行されたこともあり、これによりわが国における著作者人格権に関する研究を国際的にアピールできたことの意義は大きいと考える。また本年度は、昨年度の研究成果である論文「著作者人格権の立法的課題」を収録した書籍『知的財産法の理論と現代的課題』(中山信弘先生還暦論文集)が弘文堂から出版されるに至った。 以上のように、本年度は、当初の計画以上の成果が得られ、その成果は着実に公表されているものと考える。
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