本研究は、取締役・執行役等の会社に対する民事責任制度のあり方について研究することを目的とするものである。 平成16年度においては、主として、商法の中に取締役の対会社責任に関する規定が入れられた明治44年改正前後の議論状況を中心に、制度の歴史についての調査・研究を行った。また、本年度は、会社法の新たな立法、証券取引法への課徴金制度の導入など、関連法律の動きがめざましく、それらの情報を収集・分析も併せて行った。その成果の一部については、早稲田大学21世紀COE《企業法制と法創造》におけるプロジェクトの一つである「企業社会の変容と民事責任システムの新たな構築」研究会において発表を行い、そこにおいて、(1)少なくとも大規模公開会社においては、取締役等が会社の生じた損害を個人として賠償するといった理論構成はありえない、(2)取締役等の対会社責任制度の機能については、株主代表訴訟制度と組み合わせて違法等行為等抑止(経営者に対する法遵守のエンフォースメント強化)にしか求められない、(3)その意味では、今後、取締役の対会社責任制度は刑事罰や課徴金を含めた行政罰との関連づけが重要となる、といった主張を行い、そうした主張に対して、民法・刑事法・経済法といった分野の研究者から多くの有益な示唆を得た。現在は、そうした示唆を踏まえつつ論文を執筆中である。 なお、現在のところ、会社役員等の責任に関する法制度は、英米・EU加盟国等においても、改革・改正が頻繁になされている。次年度は、そうした諸外国の法制度の動向も踏まえた研究を行っていきたいと考えている。
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