公海上における船舶衝突事件について、特に衝突船舶の船籍が異なる場合、その責任の準拠法はいかに決すべきか。この問題については、わが国においても、諸外国においても、従来から種々の見解が提唱されているが、本研究においては、アメリカ、イギリス、フランスなど主要海運国において採用されている、いわゆる法廷地法説の基づいた場合に、この説の致命的な問題である法廷地漁り(forum shopping)をいかに回避するかについての研究を行った。 本年度は、考察の対象をアメリカ合衆国における船舶衝突事件へのフォーラム・ノン・コンヴェニエンス法理の適用に絞り、米国判例の検討を通して、その適用基準と訴え却下の際に考慮されるべきファクターを中心に考察した。その結果、現在の米国においては、船舶衝突事件においても、他のフォーラム・ノン・コンヴェニエンスの適用された事件と同様のファクターに基づき、訴えの却下が判断されていることが明らかとなった。このような判例の立場については、米国では、船舶衝突事件の特質を根拠に批判的な見解もある。しかしながら、原告による法廷地漁りを回避するためには、米国判例が提案するファクターを参考として、わが国においても裁判管轄の判断に関するファクターを検討すべきであるとの結論に達した。 次年度は、この問題に関するフランスおよびイギリスの動向を考察した上で、本研究の総括として、船舶衝突事件の裁判管轄の判断に関するファクターをある程度具体化し、わが国のフォーラム・ノン・コンヴェニエンスのあり方について提案する予定である。なお、アメリカ合衆国の動向については、2004年10月に開催された第54回目本海法学会研究報告会において、本研究の中間的な成果として発表した。
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