本年度は、前年度に引き続き、新古典派経済学の主張する新自由主義的アイディアが持つ影響力について、日本と英国の比較研究を行った。第一に、アイディアの実現の程度を規定する要因としてエグゼクティブ・パワー(首相の権力)に若目した上で、エグゼクティブ・パワーの程度を拒否権プレイヤーと行政府・政党の凝集性という概念により説明する理論枠組みを構築した。これによれば、行政府と政党の凝集性がともに高い英国では政策決定過程において当初のアイディアが実現しやすいが、二つの凝集性がともに低い日本では政策決定過程でアイディアが歪曲されやすいという仮説が得られる。 第二に、この仮説を検証するために、両国における郵政(郵便)事業民営化の比較事例研究を行った。英国ではブレア政権下で郵便の民営化が実現したが、市場原理が広範に導入されており、新自由主義的アイディアが相当程度貫徹したものだった。一方、日本では小泉政権下で郵政民営化が実現したが、英国と比較すると、市場原理が導入される程度が低かった。以上から、理論的仮説が検証された。なお、日本においてそれまで反対の強かった郵政民営化が曲がりなりにも実現したことは、小泉政権下で行政府と与党の凝集性が高まったことによる、との知見も得られた。 以上の研究成果は、世界政治学会において報告された。
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