研究概要 |
W・バジョット(1826-77)は、著述活動の初期から、「政治はビジネスの一分野」という考えを表明し、イギリス議会政治は、企業や所領の管理運営の実践を通じて修得可能な「ビジネス教養」を備えた「ビジネス・ジェントルマン」が行うべきだと論じた。The English Constitutionにおいて「実効的部分(the efficient parts)」の中心的役割を担う人材とされたのも、彼らである。本研究では、バジョットが、彼らに期待していた政治的リーダーの資質を、主に彼の政治家論に基づいて解明した。 バジョットは、「博覧会」や「通行料」等、議会によって処理されるべき「細目事項(detail)」が飛躍的に増大した「ビジネスの時代」の議会政治家には、「偉大な管理運営者(a great administrator)」の資質が不可欠であるとした。「管理運営」とは、細目事項の機械的な処理能力の保持に加え、時代が直面する政治的問題を管掌する(manage)こと、および将来の見通しを立てそれに向けて調整することである。状況全般を管掌するためには、政治上のあらゆる細目事項に取り組む「真摯さ(earnestness)」が不可欠であり、これにより、あらゆる諸事実の比較から物事の趨勢を予察することができ、将来へ向けての実行可能な方策を見出すことが可能となる。 バジョットは,「偉大な管理運営者」であることを議会政治家の基本的な要件としつつ、安定的時代と改革の時代にはそれぞれに応じて別種の資質が必要だと論じた。世論が一定の方向性を明確に示す安定的時代には、議会内の多様な見解を調整しながら、世論の動向に沿った形で多数派を形成できるピールのような調停型の政治家が最適であった。他方、国制の枠組みのあり方が問われるような改革の時代には、世論は不明確であるため、グラッドストンのように、「雄弁の力」によって聴衆の心の深部に潜在している感情を掘りおこし、自らのプランへ向けて嚮導する「統率(command)」型の政治家が必要となる。
|