本年度は、第一に、政策学習に関する理論研究を行った。そこでは、昨年度の研究成果をもとに、わが国の行政組織における連鎖的学習モデルに関して、(1)政策パラダイムの転換、(2)政策アイディアの構築、(3)政策アイディアの制度化、という3つの学習の連動性に関する知見が得られた。特にその運動性に関しては、「教訓導出学習」等での政策アイディアの移転プロセスにおいて、政策パラダイムの限界を認識する認識枠組みが形成されることが確認された。また、連鎖的学習とアイディアの関連について、制度を媒介する形での因果メカニズムに関する知見が得られた。そこでは、特に、(1)倫理的価値基準、(2)問題の認識枠組み、(3)技術的手段の指針、という階層性を有するアイディアが、(1)制度化、(2)制度フィルター、という制度との関連において、またアクターの利益の再定義という形で政策学習に影響を及ぼすことが確認された。 第二に、政策学習に関する事例研究を行った。そこでは、わが国と英国の航空輸送産業における1980年代からの規制改革過程について、(1)競争政策への政策転換、(2)競争政策への政策転換後の政策展開、という観点から考察した。わが国に関しては、(1)航空憲法廃止に伴う第一次規制改革、(2)航空法改正に伴う第二次規制改革、という2つの改革について考察し、(1)空港制約等の政策遺産による制約、(2)不完全なアイディア、(3)アイディアの推進者の制度的サポートの欠如、といった要因によって改革が遅れたことが確認された。また、英国に関しては、(1)参入・価格規制の自由化という第一次規制改革、(2)EU統合後の統一市場での自由化に向けた第二次規制改革、という2つの改革に関して考察し、(1)アイディアの推進者の制度的サポート、(2)EU基準等の強制的圧力の存在、といった要因によって改革が進展したことが確認された。
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