従来、条約改正交渉の展開は、関税自主権の回復から領事裁判権の撤廃へと、交渉争点の変遷によって主に理解されていた。そのため、条約改正が最大の外交課題であったことは周知でありながら、内政との連関が明確とならず、条約改正の必要から内政の改革が急がれたことが場当たり的に指摘されたり、せいぜい領事裁判権撤廃交渉の進展・停滞が法典編纂の進展・停滞と対比されるに過ぎなかった。それが、近代日本の内政と外交を統一的に理解することを困難にしていた。これに対して、本年度の研究の結果、条約改正交渉はその中心的動機に即して、行政権の対外的自立を目指す時代(そのスローガンが、関税に重きを置いたものになる場合もあれば、法権に重きを置いたものになる場合もある)から、司法の対外的自立を明確に目指した時代への変遷として、国家形成の段階に組み込む形で明確に位置づけられるにいたった。 そして、かかる一般的知見への道を開いたのが、税関行政の進展に定位した本研究の分析視角であった。すなわち、上述の行政権回復期においては、日本の大蔵省は税関行政サーヴィスの提供と、提供を通じた行政権の回復に熱心であったのに対し、司法権回復期においては、条約改正への直接的な関心を減退させ、むしろ横浜税関長の有島武などは財政支出を抑えるという防衛的な観点から、サーヴィスの水準を抑制していたことが明らかになった。以上から、前者と後者との間に時期区分を設けることの正当性が明らかになったとともに、後者の時期については内政の発達が条約改正問題に促されたという通念を再検討する必要性が浮かび上がって来たといえよう。以上の分析は、特に税関上屋行政については簡潔な要約を公表しているが、来年度は条約改正一般の展開を外交史的に裏付ける作業を完了させたい。
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