中国本土・香港を中心としたフィールドワークや、国際学会への参加・発表・交流などで以下のことが明らかになった。改革解放後の中国においては、それまで全ての組織が党・政府・国家の一部であったものが、急激な社会経済変化に伴って、様々な新しい問題や社会状況を生み出している。土地、不動産などの私有財産の所有と、業界団体の権限の増加により、党・政府の外側に多様な社会団体を生み出した。これらの新しい社会団体は、直接あるいはメディアなどを通して間接的に、政府の方針と必ずしも一致しない意見を主張し、その数と影響力は増してきている。国内のNGOは環境、貧困救済、人権といった、経済成長の歪みに関する現場の知識・情報を生かしながら、これらの社会的問題の解決を助けたり、あるいは政府に抗議・提言などを行ったりしている。NGOのように新しい組織力や知識を持った団体が政府に行政訴訟で勝訴することが多くなっている。海外からの国際NGOもこの動きに参画して、活動も多様化している。 中国と韓国では、社会的議論の惹起にマスメディアが果たす役割が大きいが、特に中国ではマスメディアが社会批判や社会改善の議論のプラットフォームとなって、学者、専門家、政府のシンクタンクの研究員などの知識・思想を社会に伝達している。このマスメディアの機能は、北東アジアの社会変化のキーとなっているが、国際関係において特定の見方やトピックに偏った報道によって、北東アジア諸国のお互いのイメージを損ない歪曲する否定的な面も、中国でのサッカーでの暴動や、反日デモの報道などで確認された。 日中韓の各社会には、国際協力を希求する知的センターが存在し、潜在的に地域的なネットワークやコミュニティーを形成する能力を持ち、またそのような意図を内包している。これらの知識力の地域レベルでのネットワーキングは始まったばかりであるが、将来的に影響を増すことが予想される。
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