平成17年度の研究では、地球大気環境レジームにおけるインセンティブ措置を比較検討し、国際環境モニタリングの構築・排出基準目標の導入・経済メカニズムの導入・(経済レベルが異なる国への)支援メカニズムの構築、がそれぞれレジームに消極的な国がレジーム参加を決める場合に有用な役割を果たすことを明らかにした。 しかしその後の調査で、各国がレジーム参加を決めるには、必ずしも、そこに何か決定的なインセンティブ措置が存在するわけではないこともわかってきた。A国にとってのインセンティブ措置が、B国にとってはむしろディスインセンティブとなる場合もあり、すべての国に万能なインセンティブ措置があるわけではない。インセンティブとは、措置という概念でもってとらえきれるものではなく、"措置"のみに焦点を当てると、各国がある環境レジームに参加を決めた真の理由・インセンティブを見落とす危険性がある。 そこで、平成18年度の研究は、環境レジーム参加に消極的だった国が参加を決定するにいたる際の"参加インセンティブ"をより総合的にみていく方針を採った。具体的には、米加大気保全レジームを事例に、80年代初頭に協定策定に背を向けた米国が、90年代に入って協定策定に前向きになったのか、その参加インセンティブについて環境・政治・経済の三要素から明らかにすることを試みた。 その結果、90年時点での米国は、環境・政治・経済の3側面すべてにおいて、80年代初頭と比較して参加インセンティブが増大していることが確認された。しかしこれらが互いにどのように作用しあって参加という決定を引き出したのか、また参加へのディスインセンティブがどのようにクリアされたのかという点については明らかにされきれていない。これらの点を次年度の検討課題としたい。
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