本年度は、国連による「統治」の事例として、東チモールにおける暫定行政機構に着目し研究を進めた。文献に基づいて「統治」に関する理論考察を行いながら、関係機関および講演会への出張/参加によって、国連の具体的活動について理解を深めた。8月には東チモールディリに出張し、国連東チモール支援団などの国際機関でのインタビューと意見交換を行い、東チモールにおける国連の「統治」の権限、機能および役割について調査した。現地調査に基づいて研究をさらに進め、12月には九州国際法学会において学会報告を行った。さらに3月には、国連大学/中央大学のワークショップに参加し、国連の活動および政策の観点から「統治」について、国連関係者および研究者と議論および意見交換を行った。本年度の研究を通じて以下の点が明らかとなった。(1)国際機構による「統治」は、理論上はさまざまな意味内容を包含しており、国連においては政策の枠組みとして用いられてきた。特に国連は統治のエージェントとして様々に関与する。(2)統治の形態は、当該地域の政治的状況、統治機構の権限や機能によって多様となり、一般化されない。(3)「統治」を行う機構の設立は、国連においては例外的な措置として捉えられている。(4)東チモールにおける国連の「統治」は、立法、行政、司法の広範な権限を持つ、東チモール暫定行政機構(UNTAET)によって実施されており、その機能は暫定行政官による規則制定による実質的支配に加えて、東チモールの独立に向けての現地化の一プロセスであり、UNTAETの内部組織の改変を通じて東チモール人を統治のプロセスに参加させることによって独立に向けた組織作りを担っていた。
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