本年度は、国連による「統治」の事例として、セルビア・モンテネグロ共和国のコソボ自治州における、国連コソボ暫定統治機構(UNMIK)の機能および役割について調査、研究を進めた。欧州連合関係の研究会、日本国際連合学会への参加によって、コソボにおける国連の役割について理解を深めた。9月には、スイス、スウェーデン、セルビア・モンテネグロ(コソボ自治州を含む)に出張し、UNMIK施設への訪問、関係者のインタビューと意見交換を行った。 本年度の研究によって明らかにされた主要な事項は以下の点である。(1)コソボ自治州においてUNMIKは行政、司法、立法を担う広範な権限を付与されている。同地域はセルビア・モンテネグロ共和国の一州であり、同共和国の主権および領土保全の尊重は国連によって確認されている。その一方でコソボ自治州の実質的自治も認められており、矛盾する状況でのUNMIKの行動の困難さが明らかとなった。(2)国連による「統治」の枠組において、UNMIKは、現地住民との協議機関の設置と同機関を通じての意思の疎通の促進、選挙を通じての自治政府、行政機関、司法機関の設置をはじめとする「政府」制度の構築を行ってきた。これは冷戦以前に国連が行っていた、「統治」と比較した場合、より発展した機能と捉えられる。(3)「統治」において、法の支配、民主制、人権の保護および促進は、達成される規範として国際社会において確認されている一方で、地域における定着は、共同体間の分断と政治権力構造が合致する場合には困難な状況となることも明らかとなった。
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