平成16年度では、以下2点が主要な研究実績である。 (1)アルゼンチンで2週間弱の実地調査をおこない、資料収集にあたった。ブエノスアイレスにある議会図書館や国立図書館、法社会研究センター、5月広場の母の会事務所、コルドバ国立大学などで、閲覧した書籍、VHS、DVDなどの映像データをもとに、1970年代の政治事情について、事実の把握をおこなっている。この実地調査では、アルゼンチンの歴史、政治を研究する上で、首都ブエノスアイレスのみでなく、コルドバ、トゥクマンといった大規模な暴動やゲリラ戦のあった地域で調査することの重要性を認識した。 (2)1970年代のアルゼンチンのおかれた国際環境について、特に、アメリカがどのような役割を果たしたかについて、現在、歴史解釈の論争や著書の評価が著しく分かれているPeter KornbluhのThe Pinochet Fileとその関連書、関連論文を考察した。この著書が示唆するように、「汚い戦争」を起こしたチリ、アルゼンチンなどの軍部に対して、アメリカは「青信号」を送ったとされている。しかし、アメリカの一貫性を欠く曖昧なメッセージを都合よく解釈し、ゲリラに対し、過剰反応的に「汚い戦争」を起こし、一般市民を犠牲にする著しい人権侵害行為を行った面もあると考えられる。この際、アメリカがどのような政治的レソリックや外交パフォーマンスを用いて、シグナルをし、メッセージを送ろうとしたのか、また、ラテンアメリカの軍部は、それをどのように受け止めたのかといった問題やそもそも、これらの歴史資料をどのように解釈するのかという問題に対処する必要があるだろう。この問題については、現在のところ、情報処理のプロセスやバイアスなどに関する心理学的アプローチなどを用いることで、より理解が深まるのではないかと考えられ、今後の研究課題でもある。
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