本研究は、薬害事件で指摘されているような共同不法行為の効果の問題点に注目し、責任の所在と損害負担方法を明確にする損害賠償責任ルール(以下、責任ルール)を経済学的効率性の視点から分析・考察し、社会的に望ましい責任ルールの提言を目指すものである。 平成16年度では、まず越野(1999)を一部拡張し、共同不法行為におけるいくつかの責任ルールの効果の考察を行った。市場占有率によるルールでは、各企業の注意水準と財の生産水準ともに社会的に最適な水準を下回ることが示された。また生産水準と注意水準の両方に依存した責任ルールと懲罰的なルールでは、ともに各企業の注意水準が社会的に最適な水準になり、それゆえ社会的総余剰を改善することになり、ともに市場占有率によるルールよりも望ましいことが示された。しかし前者のルールは制度運営費用がかなり大きくなり、後者のルールは各企業が過大負担となることが予想され、責任ルール適用に際しては、これらの点も同時に考慮する必要があることもわかった。 次に越野(2005)では、企業の研究開発に責任ルールが与える影響についての考察を行った。これは共同不法行為の代表例が薬害事件であり、この影響は医薬品業界で注目されていること、潜在的共同不法行為者のインセンティブに与える影響が考察できる、などの点から本研究の進展に寄与できるからである。結果として、非競合的特許政策の場合、賠償責任なしルールでは、研究開発の成功確率の範囲に依存して、企業の研究開発投資水準は過剰・最適・過小のいずれかの水準をとることがわかり、厳格責任ルールでは、過小投資水準をとることがわかった。一方、競合的特許政策の場合、両責任ルールで、企業の研究開発投資水準は、ともに過剰投資水準となることがわかった。 平成17年度では、以上の結果をもとに共同不法行為の要件(狭義・広義の共同不法行為)と結果(不真正連帯債務・連帯債務)をモデルに導入し、さらなる展開を予定している。さら環境経済学の分析視点より、長期への影響への考察、政策への提言も予定してる。
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