一国の平均所得の上昇とともに平均寿命の伸長が観察されるが、両者の関係は、必ずしも直接結びついているとは言えない。先行研究においても、平均所得が平均寿命に対してさほど影響を与えないことが実証的に示されている。 しかし一方で、平均所得と平均寿命の間にある見せかけの相関が何の要因に起因しているか説明するモデルはない。一般的には公衆衛生に対する公的負担の増加、医療技術の進歩などが見せかけの相関の原因と言われているが、理論的に突き詰めて考えられてはいない。 そこで今年度の研究では、上記の見せかけの相関を説明するために、前年度までにほぼ仕上げたモデルを応用し、緻密化を行った。この結果、人的資本を利用することによって平均所得と平均寿命の間にある見せかけの相関を説明できることが明らかとなった。結局、人的資本が平均所得と平均寿命と関連しているためである。 さらに現在は、多くの国々において平均寿命が収束していることに着目している。所得に先立って平均寿命が収束しているので、この時間差が存在する平均寿命と所得の収束過程を人的資本を利用して説明する枠組みを構築した。医療技術や公衆衛生に関する知識が国際的な公共財としての性質を持ち、一方で生産技術や生産に関する知識がごく普通の私的財であるため、両者の間で国際的に伝播する時に時間差が存在することがその原因であると言える。そのため多くの発展途上国においては、平均寿命の伸長が所得の増加に先立って起こり、それが所得の増加につながっているのである。
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