研究概要 |
平成16年度の本研究の成果は、"International relocation, the real exchange rate and effective demand"というタイトルの論文に仕上げた。この論文は、現在、経済学専門の国際雑誌に投稿中である。具体的な内容は以下の通りである。 本研究では、まずNew trade theoryの企業立地の内生化に関する特徴に注目し、それを貨幣経済モデルに拡張した2国動学的一般均衡モデルを新たに構築した。次に、このモデルを用いて、自国の法人税率の上昇が両国の失業および有効需要に与える効果を示した。以上の結果を厳密に説明すると、次のようになる。自国と外国からなる2国独占的競争モデルにおいて、自国の法人税率の上昇は、自国にマイナスとプラスの2つの効果をもたらす。前者が産業空洞化効果であり、後者が交易条件効果である。それぞれの効果は、次のように説明できる。まず法人税率が上昇すると、自国から外国へ企業移動が発生し、結果として自国の生産レベルが低下し、それにより労働需要は減少してしまう。ところが、他方では、法人税率が上昇すると、実質為替レートが国際間の企業立地の裁定行動から減価するように調整される。この為替レートの減価は、自国財への世界需要を増やすので、結果として自国の労働需要は増加する。前者が産業空洞化効果であり、自国(外国)の雇用にマイナス(プラス)に働く。そして、後者が交易条件効果であり、自国(外国)の雇用にプラス(マイナス)に働く。 以上の説明から、自国の法人税率が自国経済の雇用に与える効果は、上記二つの効果の相対的な大きさによって異なることがわかる。本研究では、もし自国が多国籍企業の株式保有高が相対的に高いという意味で債券国であるならば、自国の法人税率の上昇は自国の雇用と有効需要を増加させ、外国のそれらを減少させることが示された。逆に、自国が債務国ならば、自国の法人税率の上昇は、自国の雇用と有効需要を減少させ、逆に外国のそれらを増加させることが示された。
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