本研究の成果は、次の2点である。1)各国特有の生産性を考慮した2国産業内貿易モデルを構築したこと。2)このモデルを用いて、ある国の生産性上昇が国際的な生産立地の分布と各国の実質所得に与える効果を明らかにしたこと。 上記のモデルの特徴は、国際間の企業移動と各国特有の生産性の差異が一般均衡モデルで同時に考慮されている点である。実際、各国特有の生産性に関しては、日本とアメリカを例にとると、交通機関や物流の発達、職場のIT化率が異なるために、同じ労働者であっても労働生産性が異なると考えられる。このような現実に注目して、本研究では、まず2国間で自由に生産場所を決定できる企業が、各国特有の生産性の違いを考慮に入れながら合理的に生産場所(国)を選定している点を内生化した。次に、このモデルを用いて、ある国特有の生産性ショックが企業の立地と各国の実質所得に与える効果をそれぞれ分析した。 その結果、自国特有の生産性ショックが発生した場合、外国から自国への企業移動が発生することが明らかにされた。また、自国の実質所得は、生産性上昇による「賃金上昇効果」と世界的総需要の増加を通じた「利潤増加効果」を通じて常に増加するという結果が得られた。また、外国の所得に与える効果に関しては、「利潤増加効果」のみを通じて、常にプラスの効果が発生することがわかった。 以上で示された各国特有の生産性ショックの効果については、実際、1990年代後半の日本や2000年前半の米国でITブームという形で起きた。今回の研究から、各国特有の生産性ショックが発生すると、両国の景気がともに上昇するという結果が理論的に示されたといえる。
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