本研究では、日本の多国籍企業が海外現地法人を設立する場合、親企業の出資比率がどのような要因によって決定されるかを分析している。多くの出資比率の決定要因に関する先行研究で扱われている企業、産業、受入国の特性に関する変数に加え、為替レートを決定要因として重視している点が本研究の特徴である。 為替レートが出資比率に影響を与える理由として以下のメカニズムが考えられる。不完全資本市場を仮定した場合、企業が持つ現金、自己資本、株価等が投資に正の効果をもつことが知られており、実証研究でもそのような効果が確認されている。このような投資への資産の効果(または金融制約の存在)を考慮すると、円高は、海外へ投資する日本企業にとって、相手国通貨で測った資産が増加すると同じ効果を持ち、その国への投資金額を増加させる効果をもつことになる。 本研究では、このような不完全資本市場における投資のモデルを利用し、日本の多国籍企業約60社の現地法人のデータを用いて出資比率の決定要因を調べている。先行研究で用いられた様々な変数(企業の技術、経験、業種、受入国のガバナンス等)をコントロールしても、為替レートは出資比率に有意な効果を与えるという結果が得られた。本研究ではさらに、推定された為替レートの効果が、為替レートと直接投資の関係を説明している他の理論仮説によって説明可能かどうかを検討した。その結果、本稿で得られた為替レートの効果は、資本市場の不完全性によって最もうまく説明されることが明らかとなった。
|