今年度の研究では、混雑が発生する交通ネットワークをモデル化した上で、交通投資の便益をどのように評価すべきかを分析した。本研究では、価格と社会的限界費用が等しいファーストベストの場合とそれらが等しくないセカンドベストの場合を明確に区別して分析を行っている。ファーストベストの状況では、交通投資がもたらす便益は、交通投資が行われたルートにおける、消費者余剰と生産者余剰の合計だけになる。セカンドベストの状況下では、交通投資がもたらす便益は以下の3通りの方法で求めることができる。(1)すべてのルートにおいて、消費者余剰と生産者余剰を合計する、(2)交通投資が行われたルートにおける、消費者余剰と生産者余剰の合計に、その他のルートでの死重損失の変化の合計を加える、(3)価格と限界費用が等しいファーストベストの状況下の便益に、全ルートにおける死重損失の変化の合計を加える。ファーストベストの状況では、交通投資が行われたルート以外では、死重損失の変化がゼロであるので、ファーストベストの状況での便益計算がセカンドベストの状況での便益計算の特殊ケースになっていることがわかる。また、(3)の方法を応用すると、混雑税の導入のように、価格と社会的限界費用の差がもたらす歪みを矯正する政策の便益は、すべてのルートにおける死重損失の変化の合計であることがわかる。以上のような理論的な結果を実務に応用可能な形で導出し、理解を助ける例題を考案した。
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