本年度は、標準的なミクロ経済モデルをもとに、交通投資の便益評価理論を交通需要予測モデルとの関連を明確にしつつ体系化した。その結果、実務でよく用いられる、ワードロップ均衡をもとにした需要予測モデルやロジットモデルを用いた需要予測モデルに対応する効用関数は、ミクロ経済学の通常の効用関数の特殊ケースに当たることが明らかになった。この結果は、一般的な便益評価手法を用いて、ワードロップ均衡をもとにした需要予測モデルやロジットモデルを用いた需要予測モデルの便益評価を行うのは良いが、それらの特殊なモデルのために開発された便益評価手法を、一般的な便益評価に適用することはできないことを意味している。また、ワードロップ均衡をもとにした需要予測モデルやロジットモデルを用いた需要予測モデルでは、効用関数の形が特定化されるため、新規のルートを整備するプロジェクトの場合に、実務上簡単に便益を計算することが可能になることも明らかにした。 理論的な結果をもとに、現在用いられている交通投資の費用便益分析のマニュアル類の問題点を整理した。検討対象としたのは、道路、鉄道、空港の費用便益分析マニュアルである。道路に関しては、各ルートが完全に代替的で総交通需要が固定の場合にしか成立しない便益計算法をすべての場合にあてはめていることが便益評価を歪める可能性があることを示した。鉄道と航空に関しては、各ルートの一般化価格の平均を用いて便益評価を行うことには根拠がなく、この方法は誤った便益評価につながる可能性があることを示した。また、空港の費用便益分析マニュアルで必ずしも明記されていない、空港に容量制約がある場合の便益評価に関しても分析した。
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