本研究では、ネットワーク外部性が働いている産業におけるネットワーク間相互接続や技術互換性について理論的・実証的に検討している。本年度の主要な作業は次の通りである。 第一に、ネットワーク外部性(複数の消費者間の需要面の規模の経済と捉えることができる)についての既存の理論的、実証的研究と、しばしばネットワーク外部性ともに観察されるスイッチングコスト(単一消費者の、複数時点間の需要面の規模の経済と捉えることができる)についての既存の理論的、実証的研究を体系的に整理した。 第二に、日本のブロードバンド、インターネット証券、パソコンOS、アプリケーションソフト(ワープロ、表計算、動画プライヤー)といった産業・市場について、利用状況の推移についてのデータを入手し、ネットワーク効果の大きさを推計するための計量的分析を開始した。 第三に、技術互換性の有無がネットワーク外部性の出現の仕方に根本的な影響を及ぼすことに着目し、VTR、ファクシミリ等の市場について、技術標準を通じた互換性の実現と、イノベーション、ネットワーク拡大の間の相互関係を調査した。 第四に、技術標準の成立過程についての理論的分析を行った。技術標準が重要である産業で、標準が複数の企業が持つ技術によって構成される状況では、通常、企業はクロスライセンスやパテント・プール等を通じて技術をお互いにライセンスし合っている。ところが、必須技術の一部が生産を行わない研究開発専業企業によって開発されている場合には、研究開発専業企業は自社技術について高額のライセンス料を他社から求める誘因を有する。このような状況では、研究開発専業企業に対して標準に必須な技術についてはある程度低廉なライセンス料率で技術をライセンスさせる政策を彩ることが、標準成立の確立と社会厚生を引き上げる場合があることを、理論的に示した。
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