情報構造の変化が市場に与える影響について、平成18年度は、情報の経済学の観点からモデル分析を行うとともに、これまでの研究を取りまとめる作業が中心となった。 まず、昨年度の研究で課題となっていた、モデルの拡張を試みた。従来までの研究では、純粋戦略のナッシュ均衡に焦点を当てていた。遺伝子情報の利用が可能となったとき、従来のモデルでは、保険会社は契約者の遺伝子の検査は行わず、契約者からの「診断結果の報告」によって契約者のタイプを分けるとした。この場合、ある病気に対して、遺伝子に重大な疾患があるとわかった個人は、そのことを隠し、保険会社に「検査を行っていない」と虚偽の申告をするインセンティヴが働く。 このような保険会社と契約者の間の情報の非対称性が存在する場合、純粋戦略の意味でナッシュ均衡は存在しないことがわかった。これを受けて、混合戦略まで含めたナッシュ均衡について分析を行った。すなわち、保険会社がある一定の確率で、契約者の遺伝子検査を行うと仮定し、遺伝子に疾患をもった個人の行動がどのように変化し、市場均衡にどのような影響を与えるかについて分析を行った。 その結果、各主体が混合戦略を取るような状況では、分離契約が均衡となることが示された。これは、従来のモデルに比べて、より現実を反映したモデルといえるだろう。 さらに、本年度はこれまでの研究成果を書籍としてとりまとめ、「ポスト・ゲノム時代における保険市場の経済分析モデル」として出版することができ、一定の成果をもって本研究を締めくくることができた。
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