環境保全と地域振興の両立を可能とする手段として、エコツーリズムが注目を集めている。そこで、世界自然遺産候補地である知床を事例地として、エコツアー参加者と潜在的参加者である全国の一般住民に対してアンケート調査を実施し、エコツアーへの参加行動を規定する要因を分析した。 アンケート調査では、表明選好法を用いた。表明選好法を用いれば、ツアーを構成する要素ごとに参加者の支払意思額(対価として支払ってもいいと考える金額)を明らかにすることができる。表明選好法の質問では、ツアー内容(ツアーの目的、ガイドの説明、同行人数、野生動物が見られる確率)の異なる複数の代替案の中から、最も参加したいと考えるツアーを選択してもらう形式(選択型実験)と、参加したい順に順位付けてもらう形式(仮想ランキング)を採用した。 分析の結果、参加者から最も高く評価された目的地は「原生林トレッキング」であり、以下、「観光船でオホーツク海を知床岬まで遊覧」、「知床5湖(すべて)ハイキング」と続いた。また、ガイドの説明については、「簡単な説明」と比較して「詳しい説明」が受けられるのであれば、約2000円追加的に支払う意思があることがわかった。さらに、エゾシカが見られる確率が1%高くなるのであれば約30円、ヒグマが見られる確率が1%高くなるのであれば約300円支払う意思があることがわかった。同行人数については、ツアー選択に影響を及ぼさないという結果が得られた。 一方、全国の一般住民の評価額は、参加者の評価額と比較して、ほぼすべての要素について低い金額となった。この評価額の差は、知床のエコツアーに対する関心の差に起因するものと考えられる。 参加者と一般住民のエコツアーに対する選好を把握することができたとともに、比較を通して両者の選好の差異を明らかにすることができた。
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