生命保険業の構造が情報化によつてどのように変容してきたかを、外交員などへの聞き取り調査や財務データを用いた計量分析などで行ってきた。特に、16年度は研究の初年度として、どのようにこれからデータを蓄積していくかに重点を置き、さまざまな角度で情報化の影響を計る方法を膨大な文献に基づきサーベーを行い、必要なデータの選定を行った。著者が過去に銀行業の分析で行った、生産関数アプローチ(確率フロンティアを含む)と企業価値アプローチに加えて、費用関数の計測を行うことに分析手法を絞った。過去に行われた生命保険業の費用関数の計測は、計量分析上の問題などで必ずしも満足のいく結果が得られていない。単年度のクロスセクシミン分析であれば、まだそれなりの結果を得ることができるが、時間の流れを取り入れたパネルデータ分析では、有意な結果を得ることが難しい。これは、生命保険会社の破綻や合併や情報化による人員整理などの様々な要因が同時に発生しているためであると考えられる。そのため、長期的な情報化の効果を見るためには、情報化以外の要因を計量分析の中でうまく制御する必要がある。パネルデータ分析では普通、推定期間中、それぞれの組緯の構造は一定であるという固定効果モデルによる分析が行われるが、これほど激しい再編期に入っている生命保険業では安定的な構造は期待しづらい。まず、単年度の生産関数、費用関数などを、生保産業全体での分析から始めて、旧来の経営を続けている大手生保、中堅生保、破綻して外資系になった生保、もともと外資系の生保に分けての分析まで行っている。もともと生命保険業の数は銀行業に比べて少ないので、データ数の減少によるデメリットを解消するためにもパネルによるデータの確保が重要となっている。また、情報化に関するデータが銀行業のように財務データから類推することが難しい。そこで生命保険会社が発行しているアニュアルレポートに着目した。近年情報化に関する項目に実数を載せている会社が増えてきている。情報化に関するデータが不足しているものについては、アンケートや聞き取り調査で継続的に補完中である。現段階の計量結果では、昔からの組織構造が続いている生命保険業者と組織がより柔軟な生命保険業者の間では生産・費用構造などに差が出ている。情報化は組織構造を柔軟化し、効率化を促進している可能性が考えられる。ただし、分析結果はまだ限定的であり、さらなるデータの収集が必要である。生命保険の外交員などによる聞き取り調査によって、情報化によって業界内での組織構造変化の速度に大きな差が出ていることが確認されている。これらの結果を計量分析で客観的に有意に確認することは重要である。生命保険業の効率性を計る指標のようなものまで研究成果が拡大できるのではないかと期待している。
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